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記事は公的資料の原文を引用し、出典を明記しています。

原状回復のクロス張り替え、借主の負担はどこまでか

退去のときに「クロスの張り替え代」として請求され、この金額は妥当なのかと迷う。この記事は、その線引きを国土交通省のガイドラインの原文をそのまま引用して確かめます。要点は3つで、耐用年数は6年であること、年数が経つほど借主の負担は減ること、そして部屋全体の張り替え代を借主が全部払う必要はないことです。

📄 出典つき:国土交通省ガイドライン原文

原状回復 施工後:白いクロスを張り終えた個室とドアまわり
公開日:2026年8月27日 最終更新:2026年8月27日 出典:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」平成23年8月

先に結論:3つだけ覚えれば足りる

① 普通に住んでいてついた汚れや日焼けは、借主の負担ではない。次の入居者のための模様替えは貸主の負担、とガイドラインは書いています。

② クロスの耐用年数は6年。6年住めば、借主の負担割合は計算上ほぼ0%まで下がります。

③ 借主が負担するのは、原則として傷をつけた箇所を含む「一面分」まで。部屋全体の張り替え代を借主に負わせるのは「妥当ではない」とガイドラインが明記しています。

そもそも「原状回復」とは何を指すのか

言葉の印象だと「入居したときの状態に完全に戻すこと」に読めます。ガイドラインの定義は、そうではありません。

原状回復とは、賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること

出典:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」平成23年8月、P.8(PDF)

つまり対象は「通常の使用を超えるような使用」でついた損耗だけです。では、普通に住んでついた分は誰が持つのか。同じページに続きがあります。

例えば次の入居者を確保する目的で行う設備の交換、化粧直しなどのリフォームについては、①-A、①-Bの経年変化及び通常使用による損耗等の修繕であり、賃貸人が負担すべきと考えた。

出典:同ガイドライン P.8

「賃貸人」は貸主のことです。日焼けによる変色、家具を置いていた跡、画鋲の穴といった普通に暮らしていれば必ず起きる範囲は、貸主の負担という整理になっています。

貸主が払うのは日焼け・家具の跡・画鋲の穴・次の入居者向けの模様替え。借主が払うのは落書き・掃除を怠った結果のカビ・タバコのヤニ・通常の使用を超える使い方
図1:クロスの傷み、どちらが払うのか。国土交通省ガイドラインP.8の定義をもとに作図。

クロスの耐用年数は6年。年が経つほど負担は減る

次が金額に直結する部分です。ガイドラインは、クロスを「時間とともに価値が減っていくもの」として扱います。

壁(クロス):6 年で残存価値 1 円となるような直線(または曲線)を想定し、負担割合を算定する。

出典:同ガイドライン 別表2「賃借人の原状回復義務等負担一覧表」

本文にも、この考え方の理由が書かれています。

平成19年の税制改正によって残存価値が廃止され、耐用年数経過時に残存簿価1円まで償却できるようになったことを踏まえ、(中略)6年で残存価値1円となるような直線(または曲線)を描いて経過年数により賃借人の負担を決定する。よって、年数が経つほど賃借人の負担割合は減少することとなる

出典:同ガイドライン P.12

負担割合の目安

この「6年で1円まで、直線で」という定義から計算すると、借主の負担割合は次のように下がっていきます。

借主の負担割合は入居0年の100パーセントから直線的に下がり、3年で50パーセント、6年でほぼ0パーセントになる
図2:入居年数と借主の負担割合。ガイドライン別表2「6年で残存価値1円となるような直線(または曲線)を想定し、負担割合を算定する」という定義から作図。ガイドラインが載せているのはグラフであって数表ではない。
入居年数借主の負担割合
入居直後(0年)100.0%
1年83.3%
2年66.7%
3年50.0%
4年33.3%
5年16.7%
6年0.0%
6年を超えたあと約0%

⚠️ この表は、ガイドラインに「表」として載っているものではありません。ガイドラインが載せているのは図3・図4のグラフです。上の数値は「6年・定額法・直線」という同ガイドラインの定義から計算した値です。「ガイドラインによると1年で83.3%」という書き方は正確ではないため、この記事ではしません。

また、この表は入居の直前にクロスを張り替えた部屋を前提にしています。ガイドラインは「入居時点の設備等の状況は、必ずしも価値100%のものばかりではない」として、そうでない場合はグラフを下方にずらして使うとしています(図4)。

仮に張り替えの総額を3万円とすると、3年住んでいれば借主の負担は計算上その50%、6年住んでいればほぼ0円という形になります。この3万円という数字は計算の見本であって、当社の施工価格ではありません。

「経過年数」は「入居年数」で代わりに数える

ここは意外と知られていない部分です。本来なら「そのクロスが何年前に貼られたか」で計算するべきですが、実務ではその履歴が残っていないことが多い。ガイドラインはその問題を認めた上で、こう決めています。

賃借人がその物件に何年住んだのかという入居年数は、契約当事者にとっても管理業者等にとっても明確でわかりやすい。そこで本ガイドラインでは、経過年数のグラフを、入居年数で代替する方式を採用することとした。

出典:同ガイドライン P.12

つまり「自分が何年住んだか」で数えてよいということです。前の入居者が何年住んでいたかを調べる必要はありません。

6年たてば何をしても0円、ではない

負担割合が0%に近づくのは事実ですが、ガイドラインはその直後に釘を刺しています。

経過年数を超えた設備等であっても、継続して賃貸住宅の設備等として使用可能な場合があり、このような場合に賃借人が故意・過失により設備等を破損し、使用不能としてしまった場合には、賃貸住宅の設備等として本来機能していた状態まで戻す、例えば、賃借人がクロスに故意に行った落書きを消すための費用(工事費や人件費等)などについては、賃借人の負担となることがある

出典:同ガイドライン P.12

減っていくのは「クロスそのものの価値」であって、「元に戻すための工事の手間賃」まで消えるわけではない、という整理です。落書き・大きく破いた・故意に穴を開けた、といったものは6年を超えていても請求されうる、と読むのが正確です。

部屋全体の張り替え代を、全部払う必要はない

実際の請求で金額がいちばん大きく動くのが、この「範囲」の話です。壁の一箇所を傷つけただけでも、色や柄を合わせるために部屋全体を張り替えるのが施工の現場では普通です。では、その全額を借主が払うのか。ガイドラインの答えは明確に「いいえ」です。

当該部屋全体のクロスの色や模様が一致していないからといって、賃貸借の目的物となりえないというものではなく、当該部屋全体のクロスの色・模様を一致させるのは、賃貸物件としての商品価値の維持・増大という側面が大きいというべきで、その意味ではいわゆるグレードアップに相当する部分が含まれると考えられる。したがって、当該部屋全体のクロスの張替えを賃借人の義務とすると、原状回復以上の利益を賃貸人が得ることとなり、妥当ではない。

出典:同ガイドライン P.14〜15

認められているのは「毀損箇所を含む一面分」まで

では、傷をつけた数センチ分だけでよいのか。そこも違います。

他方、毀損部分のみのクロスの張替えが技術的には可能であっても、その部分の張替えが明確に判別できるような状態になり、このような状態では、建物価値の減少を復旧できておらず、賃借人としての原状回復義務を十分果たしたとはいえないとも考えられる。したがって、クロス張替えの場合、毀損箇所を含む一面分の張替費用を、毀損等を発生させた賃借人の負担とすることが妥当と考えられる

出典:同ガイドライン P.15

別表2の「壁(クロス)」欄にも、同じことが単位として書かれています。

壁(クロス):最低㎡単位

㎡単位が望ましいが、賃借人が毀損させた箇所を含む一面分までは張替え費用を賃借人負担としてもやむをえないとする。

出典:同ガイドライン 別表2
借主が負担する範囲は、平方メートル単位が原則、やむをえない場合で傷を含む一面分まで、部屋全体は妥当ではない
図3:借主が負担する「範囲」の3段階。ガイドライン別表2および本文P.14〜15の記述をもとに作図。

まとめると、範囲の順序はこうなります。

望ましいのは㎡単位 → やむをえない場合は傷をつけた箇所を含む一面分まで → 部屋全体は「妥当ではない」

「部屋全体を張り替えたので全額」という請求書が来たときに、確認する根拠がここにあります。

タバコのヤニと臭いだけは、部屋全体になりうる

ここまで「部屋全体は妥当ではない」と書きましたが、ガイドラインは例外を1つだけ挙げています。

喫煙等により当該居室全体においてクロス等がヤニで変色したり臭いが付着した場合のみ、当該居室全体のクリーニングまたは張替費用を賃借人負担とすることが妥当と考えられる。

出典:同ガイドライン 別表2「壁(クロス)」欄

「のみ」と書かれている通り、これは限定された例外です。逆にいえば、ヤニ以外の理由で居室全体を請求されている場合は、根拠を確認する余地があります。

まとめ

この記事が言えないこと。国土交通省のガイドラインに法的な拘束力はありません(原状回復の内容は最終的には契約と個別の事情で決まります)。ここに書いたのは「ガイドラインが何と書いているか」であって、「あなたの請求が違法かどうか」ではありません。金額で揉めている場合は、お住まいの自治体の住宅相談窓口や消費生活センター、弁護士にご相談ください。当社は法律の専門家ではありません。

お見積りについての但し書き。確定金額は現地確認後のお見積りで決まります。 お部屋の広さ、下地の状態、家具の移動の有無、クロスのグレードで変わります。 お見積り・現地調査・出張費は0円ですが、着工後のキャンセルには実費が発生する場合があります。 対応エリアは神奈川県・東京都です。

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